メッセージ From 大友良英

プロジェクト「FUKUSHIMA !」宣言

8月15日、わたしたちは福島でフェスティバルを開催します。
フェスティバルだけではなく、その前後から多数のイベントを開催しつつ、この先も長期間にわたって「FUKUSHIMA!」の名のもとに様々なプロジェクトを福島をはじめ様々な土地で継続的に展開していきます。

震災以来、福島は地震や津波の被害のみならず、今も解決の見通しのたたない原子力発電所の事故に直面しています。故郷がなくなってしまうかもしれない危機のなかで、学校の校庭が放射能で使えないような状況で、まだ多くの避難民が家に帰れずにいる現状で、今はフェスティバルをやるような時ではないという意見もあるかもしれません。しかしわたしたちは福島をあきらめたわけでは決してありません。仮に住めなくなる場所があったとしても、わたしたちは福島の再生を信じていたい。そのためにも、わたしたちには祭りが必要です。音楽が必要です。人が集い語らう場が必要なんです。生きて行く原動力が、希望が必要なんです。福島が忘れ去られないために。そして福島が外とつながって生きて行くために、わたしたちはフェスティバルをひとつの糧としたい。

これまで日本の外では知られる事すらなかった福島という地名は、今や原子力発電所の事故をおこしたFUKUSHIMAという不名誉な響きとともに世界に知られる名前になってしまいました。専門の技術者ですら解決の糸口を見いだせない原子力発電所の問題を、わたしたち市井の人間、ましてや音楽家や詩人が解決できるわけもありません。しかし、今回の問題は、単に放射能の流出とそれにともなう様々な問題だけではなく、今後の原子力発電所を含む電力をどうしていくのか、ひいては電力に支えられて来たわたしたちの生き方をどうしていくのかという大きな問いをわたしたちに投げかけてきます。さらにはこれまで築いて来た歴史や文化を土地もろとも奪ってしまうような今の文明のあり方を問い直す契機になるはずです。そしてこの問題は決して福島だけの問題ではなく、世界の人々とともに考えていったほうがいい問題だとわたしたちは考えています。

確かにFUKUSHIMAは原子力発電所の事故を起こした土地です。そのことから逃げる事は今や不可能です。しかしFUKUSHIMAの名前が事故を起こしてしまった原子力発電所というネガティブな響きとして世界に流通するのではなく、人類の未来を考えて行くきっかけとなった地名として長く人類史に語られる名前になる・・・そんな夢をわたしたちが持ってもいいはずです。そして、そんな夢を語りだすのは、わたしたち市井の人々からでもいいはずです。わたしたちは単に不幸に見舞われたのではなく、この事態を正面から見据えることで、のちのちの子孫に幸福をもたらすきっかけとなった・・・そんな未来の姿を夢見る自由があってもいいはずです。そしてその夢を実現する力がわたしたちにはそなわっている、そう信じたい。

音楽やアートの役目のひとつは、現実とどう向き合うかという視点を人々とともに考えるところにあるのではないでしょうか。こうした願いをこめて、わたしたちはこのフェスティバルを「FUKUSHIMA !」と名付ける事にしました。「No More Fukushima」でも「立ち上がれ福島」でもなく、なんの形容詞もつけずただ「FUKUSHIMA !」。世界の人たちが読む事ができる文字で「FUKUSHIMA !」。ごまかしたり目をそらすのではなく、現実を見据える勇気をこめて「FUKUSHIMA !」。未来はそこからしか生まれない、そう信じて「FUKUSHIMA !」。

8月は福島にぜひいらしてください。わたしたちはここで音楽を中心にしたフェスティバル「FUKUSHIMA !」を開催します。全世界に向けて「FUKUSHIMA !」を発信します。福島ゆかりの音楽家だけではなく、興味をもってくれた多くの音楽家や様々なアーティストとともに、どこにもないような、福島でなければ起こりえないようなフェスティバルを開催するつもりです。8月15日だけではなくその前後にもイベントを沢山やります。音楽だけではなく、ダンス、美術、詩、演劇、映画、名付けようのない新しい表現に至るまで様々な出来事が単にライブだけではなく、多用なメデイアを通じて同時多発的に福島から発信されます。おまけに近辺には素敵な温泉も沢山あります。

今年の夏の福島は、もしかしたら日本で一番面白い場所になるかもしれません。それどころか、あたらしい歴史の幕開けになるかもしれません。

大友良英